広島と長崎に投下された原子爆弾の違いについてかんたんに解説していきますね。
この記事の目次
原料と型式
広島に投下された原子爆弾のコードネームは「リトルボーイ」で、原料にはウラン235を62㎏使用し、構造は「ガンバレル型」と呼ばれる砲身状を採用しています。
このガンバレル型は、核兵器の構造としては単純なものであり、臨界量に達する核物質を分割したうえで砲身状の構造の両端に置き、火薬により一方の物質をもう片方へと衝突させ、臨界を達成、核爆発を生起させるというものになっています。
長崎に投下された原子爆弾のコードネームは「ファットマン」で、原料にはプルトニウム239が6.2㎏使用され、構造は「インプロージョン方式」を用いています。
インプロージョン方式というのは「爆縮レンズ(爆発をレンズのように集約させる意で、レンズとは直接関係ありません)」と呼ばれる極めて高度な技術が用いられたものであり、確実に核分裂反応を起こし、超臨界状態にするために、周囲から強い力をかけて中心部を同時に圧縮し、圧縮力が逃げないようにすることが必要になります。
ガンバレル型は構造が単純ではあるのですが、プルトニウムを使用できず、濃度90%以上の高濃縮ウランを用いるしかない上に、小型化が難しく核分裂の効率も低いため、使用された唯一の例は広島の「リトルボーイ」においてのみであり、人類初の原子爆弾であるトリニティ実験の「ガジェット」と、長崎の「ファットマン」以降の世界の原子爆弾の多くが爆縮レンズを用いたインプロージョン方式となっています。
爆発の威力では、広島のリトルボーイがTNT換算で16キロトン相当とされていて、長崎のファットマンはTNT換算で21キロトンとされています。
ちなみに第二次世界大戦中に、アメリカ軍が投下していた通常爆弾1発の威力は、TNT換算で109キロとされています。
ウランとプルトニウム
ウランを使用した原子爆弾を製造するためには、大量のウラン235が必要となるのですが、自然界にあるウランの99.3%はウラン238であり、ウラン235はたったの0.7%しか存在していません。
そのため「ウラン濃縮」が必要となるのですが、化学的な性質が同じウラン235とウラン238を選り分けるには、大変な手間とエネルギーが必要になってきますし、広島に投下された原子爆弾で核分裂反応を起こしたウランは搭載分の2%足らずだったといわれています。
一方でプルトニウムの場合は、原子炉と使用済み燃料からプルトニウムを取り出す化学工場(再処理工場)が必要とはなりますが、いったん原子炉が動き始めると大量のプルトニウムの生産が可能になります(現在では廃炉が決定された「高速増殖炉もんじゅ」では、自動的に大量のプルトニウムが生成されていましたので、他国から批判をうける要因となっていました)。
そして長崎に投下されたインプロージョン方式は、広島のガンバレル型よりも技術的に難しいのですが、長崎の原爆では、使ったプルトニウムのうち約16%が核分裂を起こし、広島に比べて効率がよかったとされています。
ウラン濃縮とは
ウラン濃縮の工程からえられる生成物は、ウラン235の割合が高められた濃縮ウランと、ウラン235の割合が減じられた減損ウランに分けられるのですが、天然ウラン中のウラン235の濃度 (0.7%) を超え、20%以下の生成物を低濃縮ウランと呼び、濃度が20%を超える生成物を高濃縮ウランと呼んでいます。
また、天然ウランよりもウラン235の濃度が低いウランを「減損ウラン」と呼び、特にウラン235をほとんど含まないウランを「劣化ウラン」と呼んでいます。
そして原子爆弾向けには最低20%以上の濃縮が必要となるのですが、実用上は90%以上の濃縮度が必要とされており、このため、90%以上の濃縮度を兵器級とも呼んでいます。
天然ウランのほとんどは、核分裂の連鎖反応を起こさないウラン238だというのは先ほども書いたのですが、ではいったいどのようにして、ウラン235を取り出すのかといいますと、「ガス拡散法」や「遠心分離」といった質量差を利用した同位体分離技術が一般には用いられています。
そして「ガス拡散法」や「遠心分離」といった技術でウラン濃縮をおこなうには、ウランを気化させる必要がでてくるのですが、気化に必要な温度は約3800℃とされており、これを維持することは技術的に困難だとされています。
そこであみだされたのが、ウラン金属をフッ素と化合させ、六フッ化ウランとすることで、およそ57℃で気化させることができる方法です。
フッ素には、フッ素19以外の安定同位体が存在しないため、フッ素化合物として同位体分離を行っても質量誤差が生じませんので、六フッ化ウランは、まずウランとフッ素ガスを化合させて五フッ化ウランとした後、さらにフッ素と化合させることにより製造します。
こうしてできた六フッ化ウランを遠心分離装置で高速回転させると、質量の大きいウラン238は壁側に、質量の小さいウラン235は軸側に集まることになり、この内側に集まったウラン235をスクープと呼ばれる管を使って取り出しています。
こういうわけで「遠心分離装置」や「無水フッ化水素」などは、兵器転用が可能となるため、製造国が厳しい管理下に置いているのですが、第三国経由などで、中東や北朝鮮に流れていっているのが現実です。