バイオセーフティーレベル4

バイオセーフティーレベル4の実験室での作業

バイオセーフティーレベル4とは、世界保健機関(WHO)が、ウイルスや細菌などを、感染力や、有効な治療法・予防法の有無などをもとに、4段階わけているリスクグループの、最高危険レベルです。

バイオセーフティーレベル4に分類されているウイルスは「有効な治療法も予防法もなく、容易にヒトからヒトに直接・間接の感染をひき起こします」

バイオセーフティーレベル4を扱える施設は、世界中で50か所もありません。
日本では「国立感染症研究所(東京)」「理化学研究所筑波研究所(茨城)」「長崎大学感染症共同研究拠点(長崎)」の3か所があります。
アメリカには12か所もありますし、中国では、湖北省武漢市にあります。

レベル4の実験室で作業するには、1人ではできません。
作業するには、必ず2人でおこないます。まず、入室の際は、更衣室Aで履物も含めて衣服を完全に着替え、更衣室Bで化学防護服を着用し、実験室外の人間と通常時・緊急時の連絡方法を確立しておかなければなりません。
ここまでして、やっと実験室に入れます。

レベル4バイオハザード(生物学的危害)の実験は、専用のグローブボックス付きキャビネットの中でおこなわなければいけません。そして換気は高性能フィルターを用いて2段階でおこないます。

そして作業が終わると、更衣室Bですべてを脱ぎ、シャワー室に入り、更衣室Aで自分の服に着替えます。

リスクレベル4のウイルス(全6種)

①天然痘ウイルス

紀元前1000年前後の、エジプトのミイラに、天然痘の痕跡が見られることから、ヒトが集団生活を始めた、紀元前1万年頃には、既に存在していたとみられています。

1980年5月8日に、WHOによる天然痘撲滅宣言がおこなわれました。
そのため、現在は自然界には存在せず、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)とロシア国立ウイルス学・生物工学研究センター(VECTOR)の2施設のみで現存しています。

飛沫や接触によって感染し、7日から16日の潜伏期間をへて発症します。
40℃前後の高熱と、豆粒状の発疹が全身に広がります。
致死率は、20%から50%といわれていて、完治した場合でも、発疹が傷跡として残るといわれています。

②エボラウイルス

1976年にザイール(現コンゴ民主共和国)のエボラ川近くで、男性が死亡したことによって発見されました。
初めは、マラリアだと考えられましたが、その後粘膜などからの出血と、多臓器不全といった「出血熱と呼ばれる症状」を発症し死亡したことから、未知の感染症を疑われました。

エボラウイルスには、他の多くのウイルスと異なり、免疫系を攪乱するデコイを放ち、生体の防御機構をほぼ完全にすり抜けるという特徴があります。
これが感染性の高さに繋がっていますが、毒性や致死率があまりにも高く、遠出する機会をえる前に、患者が死亡してしまうので、世界的流行にはいたっていません。

未だに、自然宿主の特定にはいたっていませんが、複数種のオオコウモリが有力とされています。
サルからの感染例はあるのですが、サルはキャリアではなく、ヒトと同じ終末宿主です。

飛沫感染が主な感染経路となっています。
患者および、その体液への濃厚な接触は危険であり、遺体への接触からも感染します。
潜伏期間は、通常7日程度といわれており、発病は突発的で、発熱、全身倦怠感、頭痛、筋肉痛、関節痛などを生じ、腹痛、嘔吐、下痢、結膜炎などの症状が継続し、多臓器不全が原因で死亡します。

発病後の致死率は、50%から80%で、過去には集団発生で致死率が、90%に達したこともありますが、ウイルスの型によって致死率は異なります。
致死率が高いのはザイール株とされています。

③マールブルグウイルス

1975年、ジンバブエからヒッチハイクで南アフリカ入りした21歳の白人男性(オーストラリア人)が、筋肉痛、嘔吐、発熱等の症状でヨハネスブルグ総合病院を訪れました。ただちに入院しましたが、出血をともない死亡しました。

自然界におけるこのウイルスの宿主は現在も不明であり、どのようにして、ヒトにウイルスが伝播されるかも、全く分かっていません。

散発的にしか発生しないと考えられていましたが、2005年4月に、アンゴラで大量に感染者が続出し、300名前後が死亡したため「散発的な感染しかない」という点について疑問が出てきています。

ヒトからヒトへの感染は、感染者や患者の血液、体液、分泌物、排泄物などの汚染物との濃厚接触によっておこります。
手袋などの防護策で感染は防げるとされいて、医療の場での空気感染による拡大はないとされています。
潜伏期間は、2日から21日といわれており、症状はエボラ出血熱に似ていて、発症は突発的で、発熱、頭痛、筋肉痛、背部痛、皮膚粘膜発疹、咽頭痛が初期症状としてみられます。
そして、播種性血管内凝固症候群(血液凝固反応が、全身の血管内で無秩序に起こる症候群)や、ショック(血圧が下がって、瀕死の状態になる急性の症候群)で死亡します。

症状は、エボラ出血熱に似ていますが、エボラ出血熱よりも程度は軽いことが多く、発病後の致死率は20%以上です。

④ラッサウイルス

1969年、ナイジェリアのラッサ村にて最初の患者が発生し、1970年代にウイルスが分離され、村名にちなんでラッサウイルスと命名されました。
日本では、1987年にシエラレオネからの帰国者が発症しています。

マストミスという、齧歯類の動物が自然宿主です。そして、感染しているマストミスは、症状を示さず、排泄物、唾液中に終生ウイルスを排出します。

潜伏期間は、数日から16日で症状は、発熱、頭痛、倦怠感、関節痛、咽頭痛、嘔吐、下痢、吐血、下血、粘膜出血などインフルエンザに似た症状が出現します。

毎年20万人以上が感染しています。感染者のおよそ80%が軽症で済みますが、約20%が重症となり、致死率は感染者の1%から2%程度です。

⑤アレナウイルス

このウイルスは、旧世界アレナウイルスと新世界アレナウイルスに分けられた後者をさしています。
前者の旧世界アレナウイルスとは、ラッサウイルスです。

新世界アレナウイルスは、南米出血熱という感染症をひき起こします。

ウイルスを保有している齧歯類との接触(ネズミの糞尿を吸いこむ場合も含みます)、ネズミによって汚染された食品の摂取、食器の使用、塵や埃を吸いこむことなどよって感染します。
また患者との接触によって感染することもあります。

潜伏期間は、6日から17 日で、症状は、発熱、筋肉痛、頭痛、眼窩後痛、血小板減少症、中枢神経障害などがみられます。
発病すると死にいたることもあり、致死率は20%を超えるとされています。

⑥クリミア・コンゴ出血熱ウイルス

1944年から1945年に、クリミア地方で旧ソ連軍兵士のあいだに、急性熱性疾患が発生したのがはじまりで、1956年ベルギー領コンゴ(現在のコンゴ民主共和国)で、同じウイルスが分離されたのが命名のいきさつです。

患者発生地域は、宿主となるダニの分布に一致していて、アフリカ大陸、東ヨーロッパ、中近東、中央アジア諸国、南部アジアとなっています。

潜伏期間は、2日から10日で、潜伏期の後、突然40℃以上の高熱、頭痛、筋肉・関節痛、上腹部痛が出現します。
発病後は、3日から 5日で各粘膜に紫斑が出現します。重度の肝機能障害を伴うことが特徴とされていて、発病後の致死率は、20%以上となっています。

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