中国と各国の経済関係
中国は、アメリカにとって、世界で3番目の輸出先であり、最大の輸入先でもあります。
そして、中国によるアメリカ国債保有高は、2020年1月の時点で、1兆786億ドル(約110兆円)となっていて、これは日本に次いで、世界で2番目の保有額となっています。
2018年、EUの対中国輸入は、3950億ユーロ(約46兆円)、輸出は2100億ユーロ(約25兆円)となっていますし、オーストラリアは、先進国の中で最も中国への経済依存度が高く、輸出の約3分の1が中国向けで、外国人留学生の約38%、外国からの観光客の15%を中国人が占めています。
このように、アメリカ、EU、豪州ともに、中国とは、切っても切れない経済関係を築いてきてきたなかで「新型コロナウイルス」の発生源や初期対応をめぐり、批判が開始されました。
中国に対する批判
ドイツ
2020年4月15日、ドイツ最大の発行部数を誇るビルト紙は、新型コロナウイルスでドイツが受けた被害への賠償金として、中国政府に、総額1650億ドル(約17兆6千億円)の賠償を請求すべきだとする内容の社説を掲載しました。
4月20日には、これまで中国に対して、友好的な態度を示してきたメルケル首相も「中国が新型ウイルスの発生源に関する情報をもっと開示していたなら、世界中のすべての人々がそこから学ぶうえでよりよい結果になっていたと思う」という発言をし、中国が情報を隠蔽したことへの批判をしました。
フランス
4月中旬に、マクロン大統領は「フィナンシャル・タイムズ」のインタビューで「独裁的な国では私たちの知らないことが起きる。中国武漢でのコロナウイルスへの中国政府の対応に疑問があることは明らかであり、中国がこれにうまく対処していると、バカ正直に言ってはいけない」と述べ、強烈に中国への批判をしています。
イギリス
ラーブ外相は「中国は、厳しい質問に答えなければならない」と責任追及の構えをみせました。
保守系シンクタンク、ヘンリー・ジャクソン協会は、中国当局の情報統制により、多くの湖北省武漢市民が、感染に気づかぬまま春節連休前に海外へ出たことが、世界的な感染拡大を招いたと指摘し、経済的損失は先進7カ国に限っても最低4兆ドル(約425兆円)に上るとの試算をしました。
さらに、中国政府が、世界保健機関(WHO)へ十分な情報提供をしなかったことは、国際保健規則に反するとして、国際社会は中国政府に法的措置を取るべきだと提言しています。
オーストラリア
4月23日、モリソン首相は「我々は何が起きたのかを調べ、その教訓を学ぶために、独立した調査が必要になるだろう。いつ調査を行うか、それには議論の余地があるだろう。 我々は今、パンデミックに対処している最中であり、こうした調査のタイミングについて、ためらう声があることも理解している」と述べ、調査の必要性を強調しました。
イラン
イランの新型コロナ国家対策委員会のミヌ・マフレズ委員は「中国は多くの論説を取り下げた。彼らが出した数字や情報はあまり正確ではなかった。新型コロナウイルスの致死性と伝染性は、この病気が中国政権が語る以上のものであるということを明示した」と述べ、調査の必要性を語りました。
ジャハーンプール報道官は4月5日の発言で「中国は、新型コロナウイルスによる死者及び、感染者に関して発表した数字や統計により、世界にひどいいたずらをした。この病気に感染した各国は、中国の発言を考慮して、この病気がインフルエンザよりも軽いものであると考えてしまった」と述べています。
中国の反論
こうした各国政府やシンクタンクの意見にたいして、中国政府は「まったくの不当な要求だ」と反論しています。
「世界的な疫病のいくつかは、最初にアメリカで広まったが、賠償を求めた国はない」という主張をし、批判をおこなう各国にたいして「自国の対策の不十分さを責任転嫁している」と述べています。
そして、中国の耿爽(こうそう)副報道局長は、あいかわらず「中国は一貫して、公開、透明、責任ある態度で対応してきた」という定番のフレーズを繰り返しています。
中国は、批判的なメディア(ドイツのビルト紙や、豪紙デーリー・テレグラフ、読売新聞など)に、対しても「職業上の規範、道徳、基本的な良識に反する」と攻撃し、在外公館の声明や官製メディア、外交官のツイッターなどでも、攻撃的なスタンスで対抗させています。
このように、世界各国から批判にさらされようが、一歩も引かず、報復措置をちらつかせる中国にたいして、EU諸国は語気を弱めていっています。
そして「新型コロナウイルス」の発生源について、アメリカに同調し、中国に対しての批判を弱めなかったオーストラリアに対しては「大麦の関税引き上げ」という手段を行使しました。
中国政府が、オーストラリア産大麦への関税引き上げをおこなう、20日ほど前に、オーストラリアのメディア王ケリー・ストークス氏は、自国の政府にたいして、新型コロナウイルスの感染拡大をめぐる中国への批判を、撤回するよう要求していました。
そして、ストークス氏はインタビューで「モリソン首相は、中国との関係修復に徹し、北京の怒りを鎮静させ、外交による壊滅的な経済影響を避けるべきだ」と述べ、中国への非難を止めるようモリソン首相に警告しています。
あとがき
ということで、今回の記事はここでおしまいです。
確かに現在の情報では、中国政府にたいして「法的責任」を追及するのは、とても困難に思えます。
しかし、初期の情報隠蔽や、情報操作などにより、世界に多大な被害をもたらせた道義的責任は、かなり重いのではないでしょうか。
5月19日に中国は、渋っていた「国際調査チーム」の受け入れに、同意しました。
これは、もうすでに情報の隠ぺいは、完了しているということなのでしょうか。
だとすれば、調査をすることで、中国に免罪符を与えることにもなりますが、いったいどうなるのでしょうか。
それと、オーストラリアのメディア王と呼ばれるストークス氏ですが、メディアを名乗っているくせに、真実の追及よりも、経済のために「目をつむる」とは、いったいどういうことだ!と思いましたが、考えてみれば、これが「メディア界の現実」なのかもしれませんね。
今回、アメリカについて書いていないのは、以前の記事で詳しく書いているためです。