2020年度版の「防衛白書」が、7月14日に発表されました。

防衛白書とは、日本の防衛省が毎年刊行しているもので、防衛政策の基本理念について、日本国民の理解を求めるために作成されています。
そして、2020年度版の防衛白書で、刊行から50周年を迎えたそうです(防衛省のホームページでPDFのダウンロードができます)。

中国に関する記述

全般的には、国連PKO、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処、各種人道支援・災害救援活動などへの貢献を評価し、一方で、人権問題や環境汚染問題、共産党幹部による汚職問題などを指摘し、人口構成の急速な高齢化による社会保障制度の問題についても、心配する記述がみられました。

また、新疆ウイグル自治区での人権侵害については、「国際社会からの関心が高まっている」とし、インターネットをはじめとする、情報通信分野の各種方面への利用は脅威としてみており、習近平の権力基盤の拡大についても警戒をしているようです。

軍事面では、透明性を欠いた継続的な高い水準での国防費の増加に警戒感を示し、軍改革などを通じた軍の近代化による、最新技術を用いた統合作戦遂行能力の向上にも警戒しているようです。
そして最新技術については、軍民融合政策(民間資源の軍事利用や、軍事技術の民間転用などを推進する政策)によるところが大きいと見ており、人工知能(AI)の活用にも注目しています。

また、中国軍指導部が、日本固有の領土である尖閣諸島に対する「闘争」の実施や、「東シナ海防空識別区」の設定や、海軍と空軍による「常態的な巡航」などを、軍の活動の成果として誇示し、今後とも軍の作戦遂行能力の向上に努める旨を強調しているとの記述もありました。

そして「近年実際に中国軍が東シナ海や太平洋、日本海といったわが国周辺などでの活動を急速に拡大・活発化させてきたことを踏まえれば、これまでの活動の定例化を企図しているのみならず質・量ともにさらなる活動の拡大・活発化を推進する可能性が高い。」というように警戒しています。

さらに、「中国の軍事力強化は、台湾問題への対処、具体的には台湾の独立及び外国軍隊による台湾の独立支援を抑止・阻止する能力の向上が最優先の課題として念頭に置かれ、これに加えて近年では、拡大する海外権益の保護などのため、より遠方の海域での作戦遂行能力の向上も課題として念頭に置かれているものと考えられる。」との指摘もありました。

こうした中国の脅威は、日本を含む周辺国や地域の問題のみにとどまらず、世界中に及ぶ問題であるとの認識であり、「中国による支配を良しとしない国家」への呼びかけにもなっています。

そして、「(中国が発生源とされるコロナ禍で)自らに有利な国際秩序や地域秩序の形成や、影響力の拡大を目指した国家間の戦略的競争をさらに顕在化させている。」という、中国批判の記述をしています。

こうした記述にたいして、中国側は、いつものことではありますが、「戦狼外交」の象徴みたいな存在の趙立堅報道官が「偏見とニセ情報に満ち、中国の脅威をやたらと煽っている」とか、「これは白書ではなく、黒い資料だ」という反発をしています。

しかし、日本の安全保障上では、どう考えても潜在的敵国は「中国」と「北朝鮮」ということになるのでしょうから、中国が反発するということは、この「防衛白書」の指摘が、正しいということになるのかもしれません。

※戦狼外交の「戦狼」は、「戦狼ウルフ・オブ・ウォー」という、中国の映画からきており、人民解放軍に所属する主人公が、国のために勇猛果敢に戦うストーリーは、中国版「ランボー」と呼ばれています。
そして「戦狼外交」とは、中国が打ち出している対外政策の新機軸といわれていて、中国外務省報道官による過激で好戦的な外交スタイルを表わしています。

韓国と北朝鮮に関する記述

2020年の「防衛白書」では、韓国にたいして前年まで記述があった「幅広い分野での防衛協力を進めるとともに、連携の基盤の確立に努める方針」という文言が削除されました。

そして「竹島はわが国固有の領土」、「領土問題が依然として未解決状態で存在する」という、記述にたいして韓国は、「日本政府が不当な主張を繰り返すことは、日韓関係改善に全く役立たない」と反論し、日本大使館の統括公使を呼び出して抗議をしています。

北朝鮮にたいしては、強い危機感を示し、「核兵器の小型化・弾頭化を実現し、これを弾道ミサイルに搭載して、日本を攻撃できる能力をすでに保有しているとみられる」と記述を、画像とともに追加しました。

こうした状況から、地上配備型ミサイル迎撃システムである「イージス・アショア」の配備計画が生まれたのですが、「迎撃ミサイルのブースターを安全な場所に落下させることが困難である」との理由から、計画の停止が発表されました。
しかし、迎撃ミサイルを発射するということは、日本に向けてミサイルが飛んできている状況ですので「ブースターの落下を心配している場合なのか?」という意見もありますし、最新兵器に迎撃での対処は困難なため、そもそも「敵基地への先制攻撃しかない!」という意見もあります。

相手国からの攻撃にたいして、防御に徹することを「拒否的抑止」といい、相手国の兵器や基地を破壊する行為を「懲罰的抑止」といいます。
そして、軍事専門家からは、もはや「拒否的抑止」では、日本の領土を最新兵器から守ることは困難という意見が多くみられるのですが、日本国憲法では「懲罰的抑止」と呼ばれる行為は禁止されていますので、現状ではどうにもなりません。
つまり現在の状況では、日本周辺に存在する「潜在的敵国」にも、憲法9条をご理解してもらい、無茶な行動は慎んでもらうしかないということですね。

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