「人身売買」なんて日本では、なかなか耳にしない言葉ですが、世界ではいまだに横行しているのが現実です。
とは言いましたが、アメリカ国務省が「人身売買に関する年次報告書」というものを、毎年発表しているのですが、この報告書において日本が「Tier1: 人身取引撲滅のための最低基準を十分に満たしている」に昇格できたのは、2018年になってからです。
それまでは「援助交際」「JKビジネス」「外国人技能実習制度の悪用」などが問題視され「Tier2:人身売買撲滅のための最低基準を十分に満たしていないが、満たすべく著しく努力している国」に挙げられていました。
このように、アメリカ国務省の「人身売買に関する年次報告書」は、世界の国々の現状を「Tier1、Tier2、Tier2 WatchList、Tier3」の4段階に分けて評価しています。
人身売買がおこなわれる主な目的は、強制労働、性的搾取、臓器移植、国際条約に定義された薬物の生産や取引、貧困を理由に金銭を得る為の手段などにあります。
そして、世界第2位のGDPをほこり、米国債の保有ランキングでも日本に次いで第2位の中国は、現在でも「Tier3:基準を満たさず努力も不足」の評価をうけています。
「中華人民共和国」国内の人身売買
人身売買の背景
中国の国内では、毎年、数万人もの児童が誘拐され、売買されています。
「臓器売買」を目的とした人身売買も発生しているのですが、ほとんどは「一人っ子政策」の弊害によるもので、誘拐・売買されている被害者の大半が「男児」です。
誘拐・売買の対象として最も多いのは、1歳未満の子供です。
この時点では、男女の比率はほぼ同じなのですが、1〜6歳も対象となる多発期では、男児の方が女児よりもリスクが高くなります。
そして、6歳から発生率がいったん低くなり、9歳以上になると今度は女児のリスクが高くなります。
世界中でおこなわれている人身売買のほとんどは、強制労働や性的搾取が目的だとされていますが、中国では児童人身売買の主な目的は「家の後継ぎ」や「老後の世話役」のため、物心がまだついていない6歳未満の男児が狙われやすくなっています。
人身売買の実態
2013年から2015年までの「児童人身売買犯罪」に関する公的書類によれば、47.5%は見知らぬ人による誘拐で、35.8%は実の両親によって売られていました。
実の親による子供の人身売買は、近年増加傾向にあり、ほかの親族や友人による犯罪も多発しています。
これは先ほどと重複しますが、背景には「一人っ子政策」によって、子供を多く持ちたくても持てない家庭が存在するため、児童を買いたいという需要があり、児童を買う家族に罰則が存在しないことがあげられます。
多くは内陸の貧しい家庭から誘拐され、東部沿岸部の裕福な家庭に売られるという図式になっており、家族が警察に訴えても、警察は捜査を拒むこともあるそうです。
こうした現状にたいして、中国政府も本腰を入れた対策には乗り出しておらず、児童売買に医師などが関与する例もあります。
そして、一人っ子政策の規定を超える子供を持ってしまい、罰金を支払えない親が子供を売りに出す例もあり、これらは養子縁組という形で売買されていますし、インターネットでの取引も活発におこなわれています。
武漢大学の研究チームがつくった「中国児童人身売買データ」によりますと、子供が多く売られた都市は、上海、成都、重慶、福州、南京、西安で、子供が多く買われた都市は、莆田、徐州、重慶、、成都、鄭州だとされています。
そして統計によりますと、1月の春節(旧正月)前に、子供の人身売買事件が多発しているようです。
この時期は、金銭欲しさによる犯罪が増加し、人が大量に移動する時期のため、駅やバスターミナル、ショッピングセンターなどで誘拐される危険性が高くなっています。
他国との人身売買
北朝鮮
BBCが報じた、イギリスの人権団体が発表した調査報告書によりますと、中国で「性労働者」として強制的に働かされている北朝鮮の女性は数千人規模に上り、中には9歳の少女もいるとのことでした。
北朝鮮の女性たちが人身売買や誘拐によって中国に運び込まれ、売春や中国人男性との強制結婚をさせられている実態が明らかとなっています。
調査によってわかったのは、女性たちの多くは12~29歳で、中国北東部の外国人労働者が多い地域にある売春宿で働かされていました。
何回かにわたって人身売買が繰り返され、北朝鮮を出てから1年以内に、数種類の性奴隷的な仕事に就かされていたとされています。
こうした人身売買や性的搾取によって、犯罪グループは年間110億円ほどを得ているとされています。
BBCは「被害女性たちは最低30元(約480円)で売春させられ、1000元(約1万6000円)で、妻として売られています。そしてセックスカム(インターネットで性行為などをリアルタイムで配信すること)の隠れ家に閉じ込められ、オンラインで世界中の観客の目にさらされている」と報じています。
そして、女性たちはウェブカメラの前で性行為をしたり、性暴力を受けたりしていたのですが、そうした動画を見ている人の多くは、韓国人だったそうです。
こうした犯罪は、自由を求めて、あるいは家族を養うという出稼ぎ目的で、密かに中国へ渡ろうとする女性が少なくないため、犯罪者たちは容易に「カモ」を見つけることができるためです。
そして、脱北者は痛めつけるという北朝鮮当局の姿勢は、被害を訴え出ることを女性らに躊躇させています。
つまり、人身売買ブローカーや国境警備の軍人にとって、これほどおいしい「闇ビジネス」はないとのことです。
タイ
米ジョンズ・ホプキンス・ブルームバーグ公衆衛生大学院と、「(タイに拠点を置く女性人権NGO団体)タイ・カチン女性協会(KWAT)」による研究では、2013~2017年の4年間で、ミャンマー北部から中国のある一つの省だけでも約2万1千人の成人女性や少女が無理やり結婚させられたとみています。
手口としては、都会に憧れる若い女性を騙したり、無理やり拉致したりして、薬物を注射したり、性欲を刺激する薬などを与え、逃げられなくして、中国人に売り払うということです。
このように現在でも「人身売買」は、世界の一部の地域では、日常的におこなわれています。
日本でも「昭和恐慌」のとき、農村部では凶作が重なり、娘を「身売り」にだす行為が多発しました。
中国政府は「買う側」の処罰をしないので、薬物などと同様にブローカーが稼げることから、この犯罪がなくなるのは、きっと難しいことなのでしょう。