2020年6月23日にアメリカで、ジョン・ボルトン前国家安全保障問題担当大統領補佐官の回顧録「それが起きた部屋:ホワイトハウス回顧録(The Room Where It Happened:A White House Memoir)」発売されました。
この回顧録は、現職大統領の安全保障を担当した元側近が著者であることから、ネット通販最大手のアマゾンでも一番人気となっており、世界中からの注目を集めています。
この記事の目次
ジョン・ボルトンとは何者
1948年、アメリカのメリーランド州ボルチモアで、消防士の父親の家庭に生まれたジョン・ボルトンは、1964年の高校生の時に、アメリカ合衆国大統領選挙で共和党候補の選挙運動に参加しています。
その後は奨学金をもらいながら、超名門であるイェール大学を首席で卒業し、イェール大学法科大学院へと進んでいます。
この大学院では同時期に、ビル・クリントンとヒラリー・クリントンも在学していました。
大学院卒業後は、ワシントンの法律事務所での勤務を経て、保守派のジェシー・ヘルムズ上院議員の補佐官、レーガン政権下で司法次官補代理、父ブッシュ政権で国務次官、子ブッシュ政権で国連大使などを勤めています。
そして2018年4月から2019年10月まで、トランプ政権で国家安全保障問題担当大統領補佐官を勤め、現在に至っています。
ボルトンは、根っからの共和党員であり、アメリカのタカ派(政治的傾向の分類で、戦争など武力を辞さない姿勢を持つ人)と呼ばれる者を代表する一人です。
2003年のイラク侵攻では、他のネオコン(新保守主義者)学者や官僚とともに旗振り役を担い、アメリカを戦争へと駆り立てていきましたが、今ではイラク侵攻は「間違った戦争」という概念がアメリカでは定着しているため、当時のブッシュ政権で、国務省と国防省の要職についていたネオコンは、イラク戦争の戦犯として一掃されていくことになります。
そうした中を、ボルトンは生き残り、トランプ大統領に拾われ、最終的には国家安全保障問題担当補佐官にまで上り詰めました。
しかし、軍事力や国力を外交の交渉材料としてちらつかせるトランプと、実力行使も辞さない強硬姿勢のボルトンとの間には乖離が生まれ、在任わずか1年半で解任されるという結果になります。
そんなボルトンには、「メモ魔」と呼ばれる一面があり、今回出版した著書は、トランプ政権時代の在任期間中にとったメモの記憶(解任時に処分したため)をもとに書き上げたとされています。
注目されている主な内容
トランプ大統領にとって米朝首脳会談は宣伝のため?
ボルトンは、在任中に行われたトランプ大統領と北朝鮮のキム・ジョンウン朝鮮労働党委員長との3回にわたる首脳会談について、会談の中身や各国の要人とのやり取りだとする内容を記しています。
2018年6月にシンガポールでおこなわれた、史上初の米朝首脳会談については、北朝鮮との事前交渉が行き詰まるなか、トランプ大統領が「これは宣伝のためだ」とか、「中身のない合意でも署名する」と述べたなどとして、非核化の実現よりも、自身のアピールに関心があったという指摘をしています。
また、この会談の実現に向けては、当初、韓国のムン・ジェイン大統領の側近が、北朝鮮のキム委員長に働きかけていたと指摘し、「戦略よりも南北の統一という目標のための創作だった」として、韓国側の思惑が強く影響していたと主張しています。
この後にボルトンは、トランプ大統領が北朝鮮に安易に譲歩しないよう働きかけを強めたとしていますが、トランプ大統領は、キム委員長との再会談に強い意欲を見せたため、2018年8月にキム委員長からの親書を受け取ると「ホワイトハウスに招くべきだ」と主張しだしたため、政権幹部がそろって反対したことがあったということです。
ここから先は、ムン・ジェイン大統領が両首脳を引き合わせるために、お互いに都合の良い部分だけを切り取って会談の場につかせたため、両首脳から反感を買った話や、安倍首相が北朝鮮をあまり信用しないようトランプ大統領にアドバイスした話が書かれています。
そうした話が韓国では、日本が南北融和を邪魔してるようにとられ、反日発言へと繋がっているのですが、日本国民を拉致し、関係ない人の骨を返してくるような国家と、最終的かつ不可逆的な合意を簡単にひっくり返してくる国家の、どこを信用すれば良いのかという疑問が生まれます。
「ウクライナ疑惑」は事実だったのか?
ボルトンは回顧録で、トランプ大統領の弾劾裁判の対象にまで発展したウクライナ疑惑について、「トランプ大統領がウクライナへの支援の見返りに、政敵のバイデン前副大統領に関連する調査を要求した」として、疑惑は事実だという認識を示しました。
著書によりますと、2019年8月にトランプ大統領は、ウクライナへの軍事支援についてホワイトハウスでボルトンに、「バイデンに関する調査資料がすべて提出されるまで、ウクライナに何ら支援するつもりはない」と話したとされています。
ボルトンは、トランプ大統領がバイデンに打撃となる情報をウクライナで見つけようとしていたことについて「幻想だ」とし、「エスパー国防長官、ポンペイオ国務長官、それに私はトランプ大統領を説得して軍事支援をする方法について意見交換を続けた。トランプ大統領と直接向かい合い、個人的な政治的利益のためにアメリカ政府を利用することは許されないと主張した」と書いています。
この疑惑で、民主党主導の下院議会は2019年12月、トランプ大統領を自身の政治的利益のためにウクライナに圧力をかけた「権力乱用」と、議会による調査を妨害した「議会妨害」で弾劾訴追し、上院議会でアメリカ史上3回目となる弾劾裁判が開かれましたが、多数を占める与党共和党の議員が無罪の判断を示し、無罪評決が下されています。
トランプ大統領が習主席に再選支援を懇願?
ボルトンは回顧録で、トランプ大統領が2019年6月に大阪で開かれた、中国の習近平国家主席との首脳会談で、「突然、アメリカ大統領選挙の話題を持ち出し、中国の経済力が選挙に与える影響を示唆しながら、みずからの再選を確実にするため、習主席に支援を懇願した」と指摘しています。
そして「トランプ大統領は、アメリカの農家からの支持の重要性を強調し、アメリカ産の大豆や小麦の購入を増やすよう求めた」と書かれています。
また回顧録では、中国の通信機器大手「ファーウェイ」の孟晩舟副会長が2018年12月にカナダで逮捕された際、トランプ大統領がボルトン氏に「中国のイバンカ・トランプを逮捕したんだ」と述べ、娘の名前まで出して不満を示したとも書かれています。
さらに孟副会長の逮捕は刑事事件であり、アメリカ政府が「ファーウェイ」を次世代の通信規格5Gで大きな脅威になると見ているにもかかわらず、トランプ大統領は何度も「ファーウェイ」の問題を、貿易交渉の取り引き材料にする姿勢を見せたとしていて、ボルトンは、貿易交渉を優先させ安全保障上の課題を軽視したとして批判をしています。
トランプ大統領が人権問題で習近平から感謝された?
2019年6月、香港で民主派によるデモが激しさを増していた時にトランプ大統領は、「関わりたくない。アメリカにも人権問題はある」と発言したほか、習近平国家主席と電話会談した際には、「香港のデモは中国の国内問題だ。側近たちには公の場で香港の問題を語らないよう伝えた」と述べて、習主席から感謝のことばを受けたと書かれています。
そして中国の天安門事件から30年を迎えた際には、ホワイトハウスが大統領声明を出す方針でしたが、トランプ大統領はムニューシン財務長官から貿易交渉への影響を聞き、「誰が声明を気にするんだ。中国と交渉をまとめようとしているんだ」と述べて、声明を出すのを拒否したということです。
またトランプ大統領は、2019年6月の習主席との会談で「習主席から新疆ウイグル自治区でウイグル族を拘束する施設の建設の必要性を説明された」としたうえで、その際に同席した通訳によりますと、トランプ大統領は「正しいことで建設を進めるべきだ」と発言したと指摘し、トランプ大統領が中国国内の人権問題を軽視しているという批判をしています。
回顧録が与える次期大統領選挙への影響
ここで紹介した内容のほかにも、トランプ大統領によるたくさんの「トンデモ発言」が記されているのですが、この回顧録の内容で怒っているアメリカ人の大半は、もともとトランプ政権の支持者ではありませんし、トランプ大統領の支持者にとっては想定内ともいえる内容ですので、あまり回顧録の影響はないといえます。
ボルトンの回顧録が与えたアメリカ人への影響でいうと、2020年の5月から始まった人種差別に関するデモもそうですが「国民の分断が広がった」というのが、正しい見方のように思います。
2020年7月1日現在、アメリカ大統領選挙の世論調査の結果は、民主党のバイデン候補がトランプ大統領に10ポイント近くの差をつけてリードしていますが、前回の大統領選挙時も世論調査では、ヒラリーが常にリードしていましたし、隠れトランプ支持者というのが存在するため、今回も開票するまでどっちになるかはわからないといえます。
それにしても今回の回顧録や、ウィキリークスや元CIAのスノーデン氏などの暴露ネタというのは、離れた位置から見てる分には、なかなか驚きもあって不謹慎かもしれませんが楽しめるものですね。