2020年4月に大阪府警は、公然わいせつの容疑で、いずれも住居不定の無職、越智彩華(21歳)と、夫の武友(39歳)の両容疑者と、出演者の少女2人を逮捕したと発表しました。
この事件で容疑者夫婦は、無職少女(18歳)と高校3年の少女(17歳)に、それぞれ、下半身を見せるなどのわいせつ映像を動画配信サイト「FC2」で生中継で配信させたとされています。
こうして「FC2ライブアダルト」で有料配信された動画による容疑者夫婦の売上は、2017年9月から2020年4月の逮捕されるまでのあいだで、2億8千万円にも上るとされています。
そして、この日本の事件が発覚する少し前に、お隣の韓国では、韓国社会を震撼させた性犯罪事件である「n番部屋事件」が話題となっていました。
通称「n番部屋事件」とは?
この事件は、韓国で2018年後半から2020年3月まで、TelegramやDiscordなどのメッセンジャーアプリ(チャットアプリ)内で行われていた大規模なデジタル性犯罪や性搾取事件を指しています。
テレグラムとは、身元ばれの危険がないと言われているロシア製のアプリで、トーク内容は暗号化されていて、一定時間以上がたつと、自動的に履歴が削除されますので、プライバシー保護の観点からは最高のアプリとされています。
ディスコードとは、Windows、macOS、Linux、Android、iOS、Webブラウザで動作する、アメリカ合衆国で開発されたゲーマー向けのビデオ通話や音声通話などもできるフリーソフトウェアです。
そして、この通称「n番部屋事件」と呼ばれるデジタル性犯罪は、3つの分類があります。
n番部屋
まず一つめは「n番部屋」というチャットルームを、「カッカッ」と呼ばれる犯人(ムン・ヒョンウク)がテレグラム内に8つ所有し、それぞれのルームで性搾取わいせつ物を載せていました。
「1番部屋」から「8番部屋」までチャットルームがあったために「n番部屋」と呼ばれています。
まず「1番部屋」を無料で視聴してもらい、有料となる「2番部屋」から「8番部屋」へと誘導していくシステム(各部屋別料金)になっていて、それぞれのルームで奴隷と呼ばれる「女性や少女」は、わいせつ画像や動画をアップさせられていました。
「カッカッ(GodGodの意)」と呼ばれたムン・ヒョンウクは、SNSなどのネット上に、セクシーな画像をアップしていた女性にたいし、管理者のふりをして「画像がアダルトサイトに転用されています」などの警告をするような偽リンクを送付したり、警察のふりをして偽のメールなどを送り付け、個人情報(本名、住所、年齢、学校などの所属先)を抜き取りました。
その後は、抜き取った個人情報で相手を脅迫し、要求した行為(自慰行為、性行為、露出行為、盗撮行為など)の画像や動画を送ってこさせて、テレグラムの各部屋にアップロードしていました。
特に悪質な行為では、個人情報を抜き取ったn番部屋の有料会員に命令して、奴隷とされている女性の家に押しかけさせたり、呼び出したりしてレイプ行為をさせていました。
こうしたレイプ被害者のほとんどは、中学生と高校生でしたので脅迫には抗いにくかったようで、被害者は合計30名にのぼるとされています。
このように稼働されていた「n番部屋」の運営は、カッカッからケリーに譲られ、最終的にはウォッチメンという人物に譲られています。
博士部屋
このチャットルームは、n番部屋の影響をうけて模倣した、通称「博士」と呼ばれる犯人(チョ・ジュビン)が運営をしていました。
博士部屋では、わいせつ画像や映像のレベルに応じて価格が三段階(約2万円、約7万円、約15万円)にわけられていました。
手口としては、まずSNSに高額報酬のバイト広告を載せて、画像を送付させ、契約するふりをして個人情報を提出させて脅迫していました。
そして博士は、自部屋の加入者の一部を「職員」と名付けて手下として使い、被害女性をレイプさせたり動画の撮影をさせたりしていました。
この職員のなかには、実際に役所勤務などをしている者や、会社勤めをしている者や、社会的立場のある者などがいたため、こちらも脅迫されていたともいえます。
実際に「職員」たちは、新しい有料会員を連れてこなければ、所属先や家族に「アダルトチャットルーム」の会員であることをばらすぞ」という脅迫があったことが、供述によってあきらかとなっています。
そして、悪魔的とも言われる博士部屋の特徴として被害女性は、「殺すぞ」などの脅迫はもちろんですが、新しい女性を連れてこさせられ、その連れてこられた被害女性は、また違う女性を連れてこさせられるというシステムが組まれていました。
こうして博士部屋では、脅迫されたといわれている職員によって、被害女性へのレイプ行為や、トイレで排水溝を舐めさす行為や、膣内にハサミを入れる行為などが撮影され、そのデータは博士に送られ、チャットルームにアップロードされていたのです。
また博士部屋の被害女性たちは、体の一部にナイフで「博士」や「奴隷」といった文字が刻まれていました。
模倣事件
n番部屋も、韓国最大のアダルトサイトと言われる「ソラネット(アダルト関連の投稿サイト)」の影響をうけたものであり、博士部屋はn番部屋を模倣していましたので、この2つのチャットルーム以外にも多数のものが存在しています。
n番部屋や博士部屋のような大規模なものはないとされているのですが、こうした捜査が活発化した2020年3月以降、テレグラムからディスコードにプラットフォームを移動させたアカウントは約30万件あるといわれています。
報道と捜査
こうした個人情報を抜き取って性犯罪に利用する事件は「警察詐称性暴行事件」として、2018年頃から知られていたのですが、当時の警察組織や社会は、あまり関心を示していなかったようです。
2019年1月に、ソウル新聞がテレグラムの秘密ルーム内で、児童のわいせつ物が共有されていることを潜入取材を通じて把握、同年4月には時事ジャーナルによって、テレグラムが不法撮影物共有用犯罪のプラットフォームとして活用されていることが報道され、8月になってようやくn番部屋事件についての報道がされました。
捜査が動くきっかけとなったのは、「追跡団花火」と名乗る匿名の大学生2人組が、潜入資料を地方警察に提出されたことだとされています。
そして、2020年1月にSBSの「気になる話Y」でテレグラム性搾取事件を取り上げられ、放送直後には、n番部屋の運営者だったカッカッが直接連絡してきたため、衝撃を受けた被害者(アップロードされてるとは知らなかったため)がツイートしたりするなどしました。
こうした動きに政治家が敏感に反応し、テレグラムデジタル性犯罪の抜本的解決などが促され、選挙公約にまで掲げられることになっていき、2020年の2月には身元隠ぺいの甘かった「模倣組」を中心に66人が検挙されます。
2020年3月17日には、「博士」と推定される被疑者とその一味14人が検挙されました。
博士は、当初、犯行を否認し自殺未遂も起こしましたが、取り調べの結果、自供をはじめます。
そして、「n番部屋容疑者の身元公開と報道陣の前にたたせる」という内容の国民請願の署名が、わずか数日で史上最多の250万件を突破したため、博士ことチョ・ジュビンは報道陣の前で謝罪し、反省の弁を述べましたが、複数台所有しているスマホのパスコードについては黙秘しています。
2019年7月から「カッカッ」を追跡してきた慶北地方警察庁によって特定したA氏を召喚して調査をし、本人の自白を受けて、2020年5月9日には、n番部屋の元祖運営者で「自分は絶対に捕まらない」と警察をあざ笑っていたカッカッことムン・ヒョンウクも逮捕されます。
逮捕後、カッカッも国民請願の署名があったため、報道陣の前に立たされ謝罪と反省の弁を述べさせられていました。
こうして「n番部屋事件」と呼ばれている一連の事件で、3大容疑者(カッカッ、博士、ウォッチメン)が全て逮捕されました。
そしてこの三人の中で一番最初に拘束されたウォッチメン(38歳男性会社員)は、以前にもわいせつ物の流布で執行猶予を受けているにも関わらず、懲役3年6ヶ月という刑になっています。
このウォッチメンと同時期に逮捕され、n番部屋をカッカッから受け継いだケリー(30歳男性)は、事件の全貌を供述したことと、反省文をたくさん書いたことで、こちらも児青法違反の前歴があるにも関わらず、懲役1年という判決が下っています。
カッカッと博士
カッカッことムン・ヒョンウクは、1995年生まれの24歳で国立大学建築学部に通う大学生でした。
周りからは、特に問題を起こさず人間関係も悪くない、平凡な学生だったといわれています。
2018年2月に「n番部屋」を設立し、その後ケリーに運営を引き渡した時期(2018年8月)には、学術に打ち込む姿勢を見せていて、建築学の担当教授とともに学会誌に論文を共同で書いたり、専攻関連の対外活動に加わったりもしていました。
そして自供では、徴兵が自身の心に闇を生んだと言っています。
一方で「博士」ことチョ・ジュビンは、25歳の男性で仁川素材某専門大学で情報通信を専攻し、学校、新聞社編集局長でも活動し、学校では成績優秀だという評価を受け、ボランティア活動もしていたようです。
しかし、2018年大学卒業後、テレグラムに銃や麻薬を販売するという虚偽の広告を掲載し詐欺を繰り広げ、2019年9月テレグラムに「博士の部屋」を作成し犯行を始めました。
そして、逮捕時に押収された現金は1300万円以上あったとされていますが、実際に取引に使用した仮想通貨のウォレットから、最大32億ウォン(約3億2千万円)に上る資金の流れが捕捉されています。
逮捕後のコメントでは、「止めることができなかった悪魔の人生を止めてくれて、本当に感謝している」と述べています。
カッカッと博士の両容疑者は、一応反省の弁をを述べてはいますが、この一連の事件の被害者は、289人とされていて、うち233人の身元が把握されているなかでは、10代が127人、20代74人、30代22人、40代5人、50代以上が5人となっており、半数以上が未成年です。
しかも、これは明らかになっている方たちだけですので、名乗り出ない者や、被害者自身の知らないところで動画などを勝手にアップされた方たちも含めると、その被害者数は何千人にも上ると考えられています。
また、もう一つの問題として、こうしたチャットルームに課金して視聴していた者が、26万人にも上ると言われており、この者たちの処罰をどうするのかということにも注目が集まっています。