「コロンバイン高校銃乱射事件」とマリリン・マンソン

マイケル・ムーア監督のドキュメンタリー映画に「ボーリング・フォー・コロンバイン」という、1999年にアメリカのコロラド州で発生した「コロンバイン高校銃乱射事件」を題材にしたものがあります。

この事件は、コロンバイン高校に在学していたエリック・ハリスとディラン・クレボルドが、昼食時に、プロパン爆弾、ショットガン2丁、サブマシンガン、ライフルなどを所持して学校に現れ、校内の庭やカフェテリア、図書館などで、銃を乱射したり爆破したりしたものです。
この惨劇は45分間にわたってつづき、12名の生徒と1名の教師が射殺され、24名が重軽傷を負うことになり、犯行に及んだ2人の生徒は自殺しています。

この事件は各メディアによってセンセーショナルに取り上げられたため、あることないことや、噂レベルの話に尾ひれ背びれがつけられていくことになります。
その被害を一番被ったのが「マリリン・マンソン(アメリカのミュージシャン)」だと言われています。

マリリン・マンソンは、「アンチ・クライスト・スーパースター」というアルバムを出し、歌詞にはセックスと暴力がたびたび登場していたため、この事件が発生する以前から、アメリカのキリスト教保守派はマンソンを糾弾するきっかけを待っていました。
そんな最中にこの事件が発生したため、キリスト教保守派メディアを中心に、「犯人の2人はマンソンの影響を受けていた」という報道がされ、それに影響された他のメディアでも同様の報道がされていきました。
しかし、この報道はデタラメだったため、後ほど「2人はマンソンのファンではない」と判明したのですが、そうした事実が報道されることは、ほとんどありませんでした。

そしてこの影響でマンソンは、予定されていたツアーは中止となり、各イベントへの出演も見合わされることになります。
マイケル・ムーアの「ボーリング・フォー・コロンバイン」というタイトルには、「犯人たちがマリリン・マンソンの影響を受けた」として、保守派メディアからマンソンが批判されたにもかかわらず、犯行の直前までプレイしていたボウリングの悪影響が論じられないのはおかしいという皮肉が込められているのです。

またこの事件では、警察の過失や不当な対応なども問題視されたのですが、一番の論争を引き起こしたのは「銃規制」への問題でした。

銃規制に反対するアメリカ人

アメリカでは、1999年の「コロンバイン高校銃乱射事件」以外にも、2007年には「バージニア工科大学銃乱射事件(死者33名)」、2016年には「オーランド銃乱射事件(死者50名)」というように、たびたび銃乱射事件が発生しています。
そして大量の死者を出す銃乱射事件に属さない「銃絡みの事件や事故、自殺」なども含めると、一日に約100人が命を亡くしていると言われています。

身近に銃など存在しない日本人からすると、なぜ「銃規制」が進まないのか?という疑問も生まれるのですが、それには島国の日本とは異なる地理的事情や、建国の経緯や、思想の違いなどが関わってきます。

アメリカは、全世界から移民が流入して誕生した国家であり、建国当時の「自分の身は自分で守る」という精神が現在でも多くの米国民の中に根強く残っているため、銃規制に反対する多くのアメリカ人は銃を手放すことを、「いわば全裸の状態であり、自分の身を自分で守れなくなる」と考えています。
そして「あなたが強盗するとしたら、銃で武装している家と銃を置いていない家のどちらを標的に選ぶか?」というのが、よく例に出されて議論がされています。

また、「バージニア工科大学事件」後に、米ABCテレビが実施した世論調査によりますと、「このような銃犯罪が起きてしまうのはなぜか?」との質問に対し、「子どものしつけの問題」という回答は半数近くにのぼりましたが、「銃が簡単に手に入るため」という回答は約2割にとどまりました。

そして、狩猟などで生計を立てている者や、熊やピューマのように人間に直接害を及ぼす大型野生動物出没地域に生活する者もいるという自然環境も、銃規制が進まない要因の一つとなっています。
※日本でも猟銃の免許制度がありますが、アメリカとは国土の広さや数の違いから、同制度を簡単に落とし込むのは難しいでしょう。

さらにこうした事情だけではなく、銃規制が問題視されるたびに声をあげてくる「全米ライフル協会(NRA)」が大きな力をもっていることも銃規制が進まない大きな要因に挙げられます。

「全米ライフル協会(NRA)」の資金集め

「全米ライフル協会(NRA)」とは、アメリカ合衆国の銃製造業や銃愛好家の団体であり「全米最強のロビイスト(特定の主張を目的として行う私的な政治活動)」と呼ばれており、銃規制の推進に熱心だったオバマ前大統領も「議会での全米ライフル協会の支配力は極めて強い」と述べています。

NRAの歴史は古く、設立されたのは南北戦争直後の1871年にまでさかのぼり、現在の会員数は500万人に達しているといわれていて、これはアメリカ総人口の約1.5%にあたります。
この1.5%という数字ではあまりピンときませんが、他の有力な「女性運動団体」や「環境保護団体」の会員数と比べてみると、圧倒的に多いことがわかります。

そしてNRAは、会費や寄付によって運営されているのですが、一般市民からも広く寄付を集めるために「Friends of NRA」という団体を別で立ち上げています。
アメリカにも「ふるさと納税」のような制度があり、税金の一部を政府に収める代わりに、自分が会員である団体に寄付をしたりするため、この別団体では、寄付額に応じて本物のライフルやピストルの「返礼品」が贈られているのです。

「Friends of NRA」は、税法上広く献金を集めることができる代わりに、党派的な活動や政治運動はできなくなっていて、逆にNRAの本体は、政治運動は可能ですが、献金を受けることにたいして、さまざまな制限が設けられています。
そこで別団体を設立して資金を集め、その別団体からNRAに寄付させるという仕組みになっているのです。

「全米ライフル協会(NRA)」の名言

「全米ライフル協会(NRA)」は、衝撃的な銃犯罪が発生するたびに、幹部がメディアに登場し、一般人による銃の所持を規制しないように働きかけるため「殺すのは銃でなくて人だ」という決め台詞を繰り返しています。
これ以外にもNRAの名言?といわれてるものでは・・・

校長が子供たちを守ろうと勇敢に飛び出したと聞いたときには・・・
「校長がM4ライフルを持ってさえいればと思ったよ」

銃を持った悪い人間を止めるには?
「いい人間が銃を持つしかないのです」

オバマ大統領涙ながらの会見に対して・・・
「感情的な説教は要らない」

大学での銃乱射事件(死亡13人)後の集会では・・・
「死んでも銃は手放さないぞ」

などの発言がNRAの幹部たちによってなされています。

「全米ライフル協会」と共和党

「全米ライフル協会(NRA)」は、キリスト教福音派やキリスト教右派、そして軍需産業らと共に「共和党」を支援しています。

2016年のアメリカ大統領選挙の時には、ドナルド・トランプへの献金と、ヒラリー・クリントンへの対策費として計3100万ドル(約32億円)を計上していますし、他の共和党議員にたいしても個別で献金をおこなっています。

アメリカの連邦議会では、日本のように法案の賛否で党の方針に従う党議拘束はありませんので、一人ひとりの議員がそれぞれの信念に基づいて法案に投票できるようになっています。
これにたいしてNRAは、「銃規制」についての考え方で議員を格付けし、ホームページでその結果を公開しています。
例えば共和党議員で、銃規制に反対する発言をしている者には「A+」という最高評価がつけられ、銃規制を推進しようとしている民主党議員には「F」という最低評価がつけられ、ネガティブキャンペーンなどがおこなわれていきます。

こうしたNRAと共和党の関係に嫌気がさしたサンフランシスコ市は、市議会で「全米ライフル協会(NRA)」を「国内テロ組織」に認定してしまいました。
サンフランシスコ市は、アメリカ国内で最もリベラルな都市の1つとされていて、民主党を支持している富裕層が多く住む都市のため、こういった認定がされたのですが、当然ながらNRAは猛反発していますし、共和党議員からは冷笑されています。

さいごに

銃の所持について、少し批判的な内容で書いてきましたが、正直言いまして、ゆるい銃規制ならともかく、日本のような銃の法規制は、不可能だと思います。

現在、アメリカ国内には2億7千万丁の銃が流通し、アメリカ国民によって所有されています。
これだけの数の銃を全部回収することは、とてつもなく困難でしょうし、あくまでも全部を完全に回収しないと、「自衛の権利」が保障されなくなってしまいます。

銃でも核でも、一番安全なのは「お互いが所持していない場合」であり、次に安全と言いますかバランスが保てるのが「お互いが所持している場合」です。
そして一番危険なのが、「どちらか一方だけが所持している場合」です。これだと、持つ者が持たざる者にたいして、マウントをとれる状態となってしまうためです。

「銃規制」や「核廃絶」は、お題目としては素晴らしいですし、そこを目指していくべきだとは思いますが、隠し持ったりする危険がありますので、現実に実行するのは、とても難しいことになるでしょうね。

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