敗北した大阪維新の会

2015年5月17日に、橋下徹氏が大阪市長を務めていた大阪市では、「大阪都構想」の賛否を巡り、住民投票が実施されました。
即日開票された結果は、賛成が694844票で、反対が705585票となり、わずか0.8ポイントの僅差で反対票が上回り、「大阪都構想」は否決されたわけです。
ちなみに、投票率は約67%で、20代から40代は賛成多数、50代と60代は賛否が拮抗、70代以上では反対が多数となっていました。

そして翌日には、当時の大阪市長であり大阪維新の会の代表を務めていた橋下徹氏が、現在の代表で大阪府知事を務めていた松井一郎氏と、共同で会見を開き、その年の12月までの任期満了にともない、次の市長選には立候補せず、政界を引退する意向を発表しました。

この会見で橋下徹氏は、大阪都構想の実現は出来なかったが、これは民主主義に基づいて実施された住民投票の結果であり、やれることはやったとの自負もあり、政界引退に悔いはなく、民主主義の素晴らしさを晴れやかに語りました。

しかし、橋下徹氏が突如政界引退を表明したことに、大阪市民や大阪府民は大変驚き、続投を望む声が多数寄せられ、反対票を投じた人の一部からも後悔の言葉があがったほどです。

この住民投票では、「大阪維新の会」VS「自民党大阪市議団、公明党、民主党、共産党、大阪のマスメディア、(大学の教授らで構成される)豊かな大阪をつくる学者の会」という対立軸になっていました。
しかし、自民党の安倍総理は、大阪都構想へ一定の理解を示していましたし、大阪出身の自民党国会議員が、共産党幹部や民主党の辻元清美議員らと共に、合同街頭演説をおこなったことにたいしては、閣僚からも疑問の声があがっていました。

現在の、新型コロナウイルスへの対応によってテレビでは、大阪維新の会のメンバーであり大阪府知事である吉村氏を、連日のように取り上げて賞賛した内容の報道をしていますが、当時の報道は全くの逆であり、橋本氏も政界引退会見で、今後はテレビからのオファーもあると思うがの問いにたいし「まったくないと思います。テレビ局なんて僕のこと大っ嫌いでしょう」と答えています。
また、同会見で「テレビ局の幹部さん、橋下だけは許さないという人がたくさんいる」とも発言していますし、ご自身でこれが変わったということは?の問いには「(大阪の情報番組である)ちちんぷいぷいとの関係がいちばん変わりましたよ。いつの間にか喧嘩ばっかりするようになったし」と冗談混じりに答えていました。

大阪維新の会の主張

大阪維新の会が掲げている都構想議論の最大の焦点は「二重行政の解消」にあります。

二重行政による弊害

大阪には、大阪府と大阪市という2つの役所が狭い面積の中で、同じような行政サービスを行い、非効率な税金の投資を繰り返し、知事と市長、府庁と市役所、それぞれの関係者が協力することなく、住民不在の中で、競い合うように税金を非効率に投資してきたというのが、大阪維新の会の主張です。

その一例に、りんくうゲートタワービル(大阪府)と、ワールドトレードセンタービル(大阪市)が、府、市それぞれ莫大な税金を投じてビルを建設し、府と市で互いに「高さ」を競い合い、当初の計画からどんどん高さが増していき、最後は10センチの差で決することになったことをあげています。
ちなみに、こうして莫大な予算が投じられた、大阪府のりんくうゲートタワービル(659億円)と、大阪市のワールドトレードセンタービル(1193億円)は、ともに現在では破綻しています。

もちろんこれは一例に過ぎず、アジア太平洋トレードセンター(3065億円)や、クリスタ長堀(907億円)など、破綻した事業は枚挙にいとまがありませんし、譲渡や売却した事業まで含めていきますと、その数や損失額は、さらに膨大なものになっていき、概算では1兆6千億円以上だといわれています。

インフラの未整備

「関西圏」の道路ネットワークが、ほぼ交通インフラが整っている「首都圏」と比較して、未整備になっている理由として、府域・市域にとらわれ広域交通インフラ戦略を実施できずにいることをあげています。

一例として「淀川左岸線の延伸部」を代表にとりあげ、大阪市をまたぐ道路の場合、府と市で「どっちがなんぼ負担する」という議論に結論が出ない場合があり、府と市の費用負担の関係から都市インフラの整備が進んでこなかったとしています。

「大阪都構想」の主張まとめ

大阪都構想では、現在の大阪市が担っている広域行政を大阪府に一元化し、同時に基礎自治行政については、4つに分けた特別区が担っていくことで、徹底した役割分担を図っていこうとしています。

広域行政一元化による二重行政の解消では、成長する大阪も目指し、身近な基礎自治行政の拡充によっては、利便性を高めた優しい大阪を実現させ、民間でできることは民間に役割分担することで、無駄なコストを省き自立する大阪へと向かおうとしています。

そして経済効果としては、数兆円規模になると主張していて、何よりも大切なことは、問題を先延ばしにすることで、30年後、50年後、100年後にも二重行政のリスクが残ってしまうことだと主張しています。

反対派の意見

佐々木信夫中央大学名誉教授は、2012年から2015年まで橋下徹氏から依頼されて、大阪市特別顧問を務め、大阪都構想に肯定的な発言をしていましたが、これ以前は「都になれば成長するわけではない。東京が繁栄しているのは企業の本社機能が集まっているためで、都制という自治制度とは関係ない」という発言をしていました。

2019年12月、自民党大阪府議団では、都構想に理解を示す議員も多く、賛否が定まっていなかったのですが、会合を開き、大阪都構想に反対することを決めました。
府議団の杉本太平幹事長は「大阪市を分割することでスケールメリットが失われ、市民生活に大きな影響が出る。デメリットを上回るメリットが見受けられない」と述べましたが、「知事や府議会に広域行政の権限が集約される点については利点もある」とも述べています。

2011年に山口二郎法政大学教授は、「大阪都構想は、大阪市の解体に他ならない。大阪市は自治権を失い、大阪府によって直接統治される。都市計画決定をはじめ、多くの権限を大阪府に吸い上げられる。こんなものが地方自治の伸長に役立つはずはない。」と述べています。
しかし、大阪市の資産や人員の大半は、特別区に振り分けられ、その他は大阪府に移管されることから、解体というより、大阪府と大阪市の再編に近いとの反論をされていますし、橋下徹氏との討論では反論をうけ、他の識者から認識不足を指摘されています。

2015年に高寄昇三甲南大学名誉教授は、「大阪市を分割し、権限・財源を大阪府に吸収すれば、大阪市民への生活サービスの低下は避けられない。」と述べました。
反対派学者の急先鋒で、テレビでおなじみの藤井聡京都大学大学院教授は、大阪都構想が実現すれば、年間2200億円の大阪市民の税金が市外に「流出」すると警告しています。
しかし大阪都構想では、大阪府は大阪市(4つの特別区)に代わって、広域行政(消防や道路整備、水道、都市戦略など)をおこないますので、その財源として2000億円ほどを、特別区から頂くものだという反論をうけています。
そして、橋下徹氏の前の市長である平松氏はインタビューで「(大阪)市役所には、京土会(京都大学の土木関係学部卒業者の閥)があった。市長になってからノーと言ってきた。市役所の計画調整局に関係する事業でも、建設局や港湾局に関係する事業でも、何でこんなものを造ったのかと思うものは、ほとんど京土会が造ってきたからだ」と述べているのですが、藤井教授の経歴は、京都大学工学部土木工学科卒業であり、著書には『正々堂々と「公共事業の雇用創出効果」を論ぜよ――人のためにこそコンクリートを』などがある公共事業推進派です。

再び住民投票へ

2020年6月10日、大阪市を廃止して特別区を設置する「大阪都構想」の是非を問う住民投票について、大阪維新の会の松井一郎代表は、新型コロナウイルスの感染が抑えられていることを前提に「2020年11月1日を目指す」と実施時期を初めて明言しました。

前回の投票では、若年層と比べて投票率が高かった高齢者らが、反対したことで否決となりましたが、今回はどうなるのでしょうね。
新型コロナ対策の影響で、吉村知事は人気と注目を集めていますし、橋下徹氏もテレビ出演を増していますから、民間人の立場で大阪維新の会を全面的にバックアップしてくるはずですので、前回と逆の結果になっても驚きはないでしょう。

確かに、反対派が主張しているような不安要素はありますが、その陰には既得権益が見え隠れしていることから、いまいち説得力に欠けていますし、腑に落ちません。
それに何よりも、こういう言い方は乱暴かもしれませんが、5年後、10年後、20年後の未来を考えて、踏み出そうとしている政策を、高齢者に阻まれるというのも少し(本当に少しですが)納得できないです。

それでは、どんな結果になるのか楽しみに開票を待ちたいです。

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