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「尖閣諸島問題」とは?
尖閣諸島周辺で強硬姿勢を見せる中国
2020年7月22日で、中国海警局の公船による尖閣諸島周辺海域(領海と接続水域)への侵入が、連続100日となりました。
過去の最長記録は、去年の64日でしたので、今回はこれを大幅に更新中ということになります。
しかも中国外務省は、7月22日に開いた記者会見の場で、尖閣諸島について「中国固有の領土だ」と述べ、外交ルートを通じて、中国政府から日本政府にたいして「尖閣諸島は中国領のため、その周辺海域での日本漁船の操業は領海侵犯になる。そのため日本漁船は立ち入らせないように」という警告を日本がされていたことが明らかとなりました。
これまで日本政府は、出来るだけ事を荒立てたりや、中国共産党政府を刺激しないように配慮してきましたが、中国はそれをいいことに、傍若無人に振舞っています。
※過去に安倍総理は、尖閣諸島へ公務員を常駐させるとしていましたが、親中派議員や経済界からの反発があったからかどうかはわかりませんが、「現在はその選択肢はとっていない。総合的に、戦略的に判断している」と述べています。
ちなみに、現在の自民党内で力を持っている親中派議員は、「Go To トラベルキャンペーン」でも強引な実施に影響を与えたと言われ「旅行業界のドン」とも言われている二階俊博幹事長と、次期総理の最有力と目されている石破茂議員です。
そして日本政府としては、中国の「無茶な警告」や「領海侵犯」にたいして、菅官房長官が「活動が継続していることは極めて深刻に考えており、中国側に対して現場海域における海上保安庁巡視船による警告、外交ルートを通じて繰り返し厳重に抗議している」と述べました。
こうした菅官房長官の発言は、通常通りであり、(日本の抗議を中国が受け入れるわけがないため)要するに何もしないということになるのですが、今回は、アメリカのポンペオ国務長官が「中国は領土紛争をあおっている。世界はこのイジメを許すべきではない」と中国の強硬姿勢にたいする非難をしています。
また、ポンペオ長官は、中国とインドの係争地域で先月発生した国境紛争も指摘し、「中国が主権を尊重すると満足に言える隣人は多くない」、「世界はこの動きに対応するために結集しなければならない」との呼びかけをしています。
「領海問題」に出てくる基本用語
領海とは?
領海の基線(海岸の低潮線、湾口もしくは湾内等に引かれる直線)から12海里(約22km)までの海域を指し、この範囲は「国家領域」となります。
ただし、すべての国の船舶は、領海において「無害通航権」を有していますので、領海を有する国を害しない限り、航行自体は自由におこなえます。
そして、領海内で他国籍の船が勝手に漁業をしたり、密輸を企んでたりした場合は、主権国の法律に基づいて船長らを逮捕する権利もありますし、他国籍の潜水艦は浮上航行が必須となっています。
接続水域とは?
領海の基線から、その外側24海里(約44km)の線までの海域(領海を除く)を指しています。
この接続水域では、自国の領土又は領海内における通関、財政、出入国管理(密輸入や密入国等)、又は衛生(伝染病等)に関する法令の違反の防止及び処罰を行うことが認められています。
つまり、法令違反となりそうなことを事前に防ぐために、監視や警告ができる水域です。
排他的経済水域(EEZ)とは?
領海の基線から、その外側200海里(約370km)の線までの海域(領海を除く)を指し、その海底及びその下も含んでいます。
この水域では、天然資源の探査、開発、保存及び管理等のための主権的権利や、海洋環境の保護及び保全に関する管轄権などを保有してます。
日本政府の公式見解と棚上げ論
日本の立場としては、「尖閣諸島は歴史的にも国際法上も明らかに日本固有の領土であり、かつ、実効支配していることから、領土問題は存在せず、解決すべき領有権の問題は、そもそも存在しない」というものです。
このため菅官房長官は、中国の行動や発言に過剰反応したりせず、冷静なコメントに終始しています(過剰反応すると、反論の応酬となり、領海問題の存在を認識しているとされるため、領海侵犯については抗議しつつも、軽くやり過ごす作戦を選択しています)。
こうした事情がありますので、日本でいう「尖閣諸島問題」とは、「勝手に中国が尖閣諸島の実効支配をめぐって支配権を主張している」ことであり、現在では、尖閣諸島周辺に中国公船が頻繁に出入りしていることが問題となっています。
事の発端は、1968年から1969年におこなわれた、国連による南シナ海と東シナ海での海底資源調査で、エネルギー資源埋蔵への期待が高まってきたため、1970年代になってから突如「中国」と「台湾」が尖閣諸島にたいしての領有権を主張し始めたことです。
そして1972年には「日中国交正常化」という日中共同声明が発表され、日本国と中華人民共和国のあいだで国交が結ばれたのですが、この時に両首脳(田中角栄と周恩来)は、尖閣諸島の領有権について「棚上げ」することで合意したと言われています(親中派の野中広務による証言)。
この日中国交正常化から1978年の「日中平和友好条約」へと繋がり、中国経済は(日本の経済援助もあって)急成長をしていき、国力を付けていくと日中両国のEEZ内で「東シナ海ガス田問題」という、海底資源に関する問題を引き起こしました。
一部の経済学者のあいだでは、「日中国交正常化」や「日中平和友好条約」に伴う日本の経済援助が、「中国の成長を数十年早めた」とも言われています。
しかし現在、尖閣諸島周辺に領海問題など存在しないという立場から、この「棚上げ合意」自体が無かったものだという公式見解を、日本政府は示しています。
強硬姿勢をとる中国の戦略
現実問題として、日本国籍の漁船が尖閣諸島周辺で操業をしていると、中国公船に追いかけられたり、煽られたりしていますし、そのたびに日本政府は、効果のない抗議を中国にしています。
遺憾という効果のない抗議は、「抗議をした事実」としては、(国際法上の問題となった時に)重要なのかもしれませんが、そんなことで「領土・領海問題」が穏便に片付くなら「南シナ海問題」も「竹島問題」も「北方領土問題」も速やかに解決しているはずです。
そして、今回の中国政府から日本政府にたいする警告は、日本漁船の拿捕に発展する可能性が危惧されていますし、隙あらば実効支配に踏み切ろうとする意図があります。
一般的な識者のあいだでは、「南シナ海」の次は、「東シナ海」であり、「香港」や「台湾」の次は、「尖閣諸島や沖縄」という認識のようですが、一部の専門家からは、この考え方は間違っているとされています。
中国はあくまでも「南シナ海」も「東シナ海」も両取りすることが目標のため、米軍の動向を注視しながら行動しているだけだとも言われており、米軍が新型コロナの影響で動きの鈍くなったのと、米軍が「南シナ海」に介入していったので、その隙をついて「東シナ海」での実績を積み上げていってるだけだとしています。
そして「台湾の次は、尖閣と沖縄だ」という意見にたいしては、台湾を取るためにも、すぐ北に位置する尖閣諸島を先に取りたがっているとしていて、「香港⇒尖閣諸島⇒台湾⇒沖縄」というのが、中国の戦略だと見ている専門家もいます。
日米安全保障条約は機能するのか?
1972年におこなわれた沖縄返還時に、尖閣諸島もアメリカから日本に戻ってきたのですが、中国はこの時に横やりを入れてきています。
アメリカにたいして、よくわからない古い資料を持ち出し、尖閣諸島周辺の領有権を主張し始めました。
そしてアメリカは、日本に返還しましたが、(基本的には)2国間の「領土・領海問題」は、当事国同士での解決が望ましいという立場ですので、実際に有事が起こった場合どうなるかは、専門家のあいだでも意見が分かれています。
日本政府としては、中国を刺激しないために、尖閣諸島への公務員の常駐や海底資源開発を遠慮する方針をとり、これは経済的には成功しているのかもしれませんが、もしも中国に尖閣諸島を実効支配された場合は、海底資源を取られることはもちろん、中国海軍に太平洋の半分を支配されることにもなりかねません。
日米安保を正常に機能させるには、尖閣諸島が日本の施政下に置かれていることが重要となってきますので、公務員を常駐させるなり、日本の建造物をたてるなりすれば、この問題は解消されるのでしょうが、間違いなく中国を刺激することになりますので、今となっては、そんな簡単に判断できることでもなさそうです。
もしかすると、安倍総理の「尖閣への公務員の常駐案」は、日本の親中派議員や経済界のみならず、「戦略的忍耐」とかいう方針を北朝鮮にとり、争いを避ける傾向が強かった(先延ばしにしただけとも言える)オバマ前大統領の反対があったのかもしれませんね。
八方ふさがりとなってきた「尖閣諸島問題」
こうして日本がとってきた方針は、緩やかな悪化を招いただけになっています。
今となっては、中国にたいし、経済をバックにした駆け引きも使いにくいですし、独自で防衛にあたることも難しい状況となっています。
かと言って、「領土紛争問題」の存在を認め、国際社会に訴えたところで、都合の悪い結果が出た場合、中国は認めないでしょうし、「領土・領海問題」は当事国同士で解決するとか言いだして、より強硬に出てくることは火を見るより明らかです。
そして領海侵犯を繰り返してくる中国公船にたいし、海上保安庁や海上自衛隊が何かすれば、それを口実に紛争に発展することも考えられますし、むしろそれを狙っているとも言われています。
こうした事情や、人民解放軍とやり合うだけの軍事力を保有しない(軍事的拮抗がとれていない)ことを考えると、日本が戦争を回避し、尖閣諸島を渡さないために、とれる道としては、中国経済の弱体化を狙うしかないように思えますし、日米安保も欠かせないでしょう。
しかし、良かれと考えてでしょうが、中国にしろ韓国にしろ、経済成長を助けた国家に嫌がらせをされている日本てどうなんでしょうね?
交渉のツメが甘いのか?それとも「そんな恩知らずな者はいない!」という考えがあったのか?交渉の関係者が既得権益に走ったのか?当時の事情はよくわかりませんが、先延ばしが良くないことだというのだけはわかりました。