「スペイン風邪」とは、1918年から1920年の終わり頃までのあいだに、世界的流行(パンデミック)をみせたインフルエンザの一種です。
インフルエンザウイルスは、人間が免疫をもっていない形態にすばやく変身します。そのため約30年に1度のペースで誰も免疫をもっていないウイルス形態が発生し、大流行が起こるといわれています。
世界的にも「スペイン風邪」と呼ばれ、国立感染症研究所でも「スペインインフルエンザ」と表記されていますが、発生源はスペインではなく、アメリカです。
「スペイン風邪」流行の経緯
「スペイン風邪」は大きく3段階にわけて流行がありました。第一波は、1918年3月のアメリカです。第二波は、1918年の秋頃で、これは世界中で流行しました。第三波は、1919年の春から秋にかけて、これも世界中で流行しました。
1918年3月「スペイン風邪」の症例がアメリカで最初に報告されました。場所はカンザス州の陸軍基地でした。その後、このインフルエンザはアメリカ全土へ拡大していきます。
このときアメリカは、1915年の「ルシタニア号事件」の影響をうけ、1917年4月に、ドイツへ宣戦布告して参戦した「第一次世界大戦」の真っただ中です。
アメリカは連合国軍として、主戦場である「ヨーロッパ大陸」に、兵士を大量に送っていました。
当時の輸送は、航空機ではなく、船舶によるものでしたので、アメリカからヨーロッパへの約5日間は、船内で一緒に過ごすことになります。そうやって送られてきた、兵士が駐屯する都市や農村から、その地の民間人に広まっていきました。
戦場では、衛生面などの環境が、整備されているわけがありません。
また、アメリカ軍が大量に投入された、西部戦線(主にフランス)では、塹壕戦による膠着状態がつづいてましたので、今でいうところの「濃厚接触状態」でした。
こうして、主に連合国軍兵士を媒介にして、世界的に広がっていったといわれています。
ドイツ軍は、アメリカ軍との西部戦線での交戦開始から1ヶ月には、ベルリンで週に500人が死亡しました。
日本で「スペイン風邪」が確認されたのは、1918年、当時日本が統治中であった台湾に巡業した力士団のうち3人の力士が肺炎等によって死亡した事がはじまりです。
そして、同年5月になると、横須賀軍港に停泊中の軍艦に患者が発生し、横須賀市内、横浜市へと広がっていきました。また、当時の日本では、スペイン風邪の俗称は「流行性感冒」でした。
「スペイン風邪」の名称
「スペイン風邪」が流行していた時期は「第一次世界大戦」真っただ中でした。
そのため、戦争に参加している国では、情報の検閲が厳しくおこなわれていましたので、アメリカでの発生状況や、感染状況の報道は規制対象となり、報道できませんでした。
そうした報道規制がおこなわれているなかで、第一次世界大戦に参戦していなかったスペインは、国名をだして自由に報道できる国だったのです。
スペインでは、800万人が「スペイン風邪」に感染しました。国王アルフォンソ13世や、政府関係者も感染しました。日本では「スペインで奇病流行」と報道されています。
このように各国とも「スペインから○○」とか「スペインで△△」などの報道がされたので「スペイン風邪」という名称が根付いていきました。
「スペイン風邪」の被害
流行当時の、世界の人口は20億人弱だといわれています。そして世界での感染者数は、約5億人だといわれています。
世界での推定死者数は、1700万人から1億人といわれています。発生源とされるアメリカでは、50万人以上が死亡したといわれています。
ちなみに「第一次世界大戦」の戦闘員・非戦闘員を合わせた死者数は、1600万人といわれています。
「スペイン風邪」の被害者の傾向では「犠牲者が主に若い健康な成人だった」ということです。
これは、当時は理由が不明でしたが、1889年以降に生まれた人々は、1918年に流行した種類のインフルエンザウイルスを、子どもの頃に経験していなかったため、免疫を獲得していなかったのです。
しかし、それ以前に生まれた人々は、1918年に流行したインフルエンザと似た型のウイルス(ロシア風邪)を経験していたので、ある程度の免疫があったということです。
日本では、当時の人口5500万人にたいし、約2380万人が感染したとされ、約40万人が死亡したとされています。
「スペイン風邪」の病原体
「スペイン風邪」の病原体は、A型インフルエンザウイルス(H1N1亜型)ですが、当時は、まだウイルスの分離技術が十分には確立されてなかったので、病原体は不明とされていました。
その後の研究で、鳥インフルエンザウイルスが突然変異し、受容体がヒトに感染する形に変化するようになったものと考えられています。
そして、解読した遺伝子からウイルスを復元したところ、マウスに壊死性の気管支炎、出血を伴う中程度から重度の肺胞炎、肺胞浮腫を引き起こすことが判明しました。
また、スペイン風邪ウイルスは、現在のインフルエンザウイルスよりも、30倍も早く増殖する能力を持つことが分かっています。
今回の「スペイン風邪」については、ここでおしまいです。
しかし、とんでもない被害者数ですね。第一次世界大戦中で、情報が隠されたことと、人の流入が激しかったことが、パンデミックを引き起こした原因でしょうが、悪いことって重なるのですね。
新型コロナウイルスの、被害拡大が早くおさまるのを願っております。
それでは、ここまで読んでいただき、ありがとうございました。