アメリカのミネソタ州ミネアポリスで、黒人男性が白人警察官に膝で首を押さえつけられ死亡した事件を発端とした「人種差別」にたいする抗議デモは、あっという間に全米に広がり、さらには、ベルリンやロンドン、パリ、バンクーバーから、アフリカ諸国や中南米、中東の都市にまで拡大していっています。

大統領選挙に生かしたいトランプ陣営

アンティファをテロ指定できるのか?

全米に広がった「人種差別」にたいする抗議活動は、一部が暴徒化したため、各地で略奪行為や放火などが発生し、警察官との対立も頻繁に発生しています。

アメリカのトランプ大統領は、このデモには「ANTIFA(アンチファシズムを掲げる極左の組織?)」が関わって暴力を煽っているとの見解を示し、アンティファをテロ指定すると公言し、軍の動員までちらつかせていますが、テロ指定の対象は外国の組織に限られていますので、そもそも、トランプ大統領には国内の団体をテロ組織に指定する権限がありません。
ただ、トランプ政権は「アンティファが中国やロシアから支援されている」という見解を示していますので、司法省の関係者からは「仮にアンティファをテロ組織に指定するなら憲法修正が必要になる」と指摘はされていますが、強引に外国の組織と認定し、テロ指定を強硬するかもしれません。

しかし、アンティファというのは、アルカイダやISILと違い、明確なリーダーや拠点などが存在しておらず、組織としての体系が確立されていない「ぼんやりした左派思想集団」のようにも言われていますので、明確な敵としてとらえるのは困難ではないかとも言われています。

トランプ大統領への支持

ではなぜ、そんなことは百も承知のトランプ政権が、あえてこのような行動にでているのかと言いますと、2020年11月におこなわれる「アメリカ合衆国大統領選挙」に勝利するためです。

現在のアメリカでは、全米にデモが拡大し、一部が暴徒化している報道が、新型コロナウイルスのニュースに取って代わってなされています。
マスコミは過激な映像を使いますので、ここ最近は毎日のように、パトカーが燃やされている映像や、(しっかり保険に入っている)高級ブランド店が破壊されている映像が流されています。

もともとトランプ大統領を支持している者の多くは、国家主義や保護主義、移民排斥主義などの思想をもつブルーカラーの層だといわれていますので、こうした暴徒にたいしての強気の姿勢は、トランプ大統領の支持を強固なものにしていきます。
そして、共和党や民主党の明確な支持者でない人たちへの不安を煽り、強い大統領の姿を見せることで、中間層の支持を獲得していこうと考えているのです。

デモがおこなわれる前の世論調査では、民主党の大統領候補者であるバイデン氏が、トランプ大統領を上回っていましたが、デモ後、暴動に関する世論調査では、抗議活動や暴動の取り締まりについて、警察とともに軍隊を動員することに賛成と回答した人の割合が58%となりました。

アメリカの大統領選挙の候補者は、対立する政党の支持者を獲得することには、それほど熱心にはなりません。
挙国一致となる戦争でもない限りは、共和党の支持者は共和党の候補者に投票しますし、民主党の支持者もそれは同じですので、大統領選挙に勝利するためには、どちらの党も明確に支持していない層をどれだけ取り込めるかが決め手となるのです。

そして、抗議活動や暴動の取り締まりについて、58%もの人たちが、強硬にでるトランプ大統領の姿勢に賛成を示しているということは、選挙権をもたない他国の人たちがどう思おうが、再選を目指すトランプ政権にとっては正解となるわけです。

さいごに

黒人男性の死亡によって発生した「人種差別」に関するデモの一部の暴徒化に焦点をあて、一般市民の不安を煽り、それを仮想敵ともいえるアンティファへと紐づけたことで強硬姿勢をみせ、支持率を回復させていっているのですから、見事なものだともいえるのではないでしょうか。

良くも悪くもアメリカの二大政党制というのは、今回の場合ですと、市民デモに焦点を当て強硬姿勢を批判する民主党のバイデン候補と、暴力行為に焦点を当て強硬姿勢を示す現職のトランプ大統領というように、極端に方針が違いますので、わかりやすいといえばそうなのかもしれません。

しかし、香港でのデモにたいしては、デモ参加者を英雄と呼び、武力介入する香港政府や中国共産党を批判していましたが、人種差別反対デモをおこなう米国民にたいして、暴徒呼ばわりし、催涙弾を使用しているのは流石だなと思います。

やはり各国とも、少し距離を置いた俯瞰的な視点では、平和や人権尊重、差別反対というキレイな言葉を使いますが、自国に降りかかる火の粉は、徹底的に排除するということが現実であり、主権国家として当然の対応なのかもしれませんね。

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